植栽管理用機械
エンジン式と充電式どちらが良いのか?
メリット&デメリット徹底検証プロジェクト
脱炭素社会到来. 造園業こそエコでありたい、そのために…
弊社は、環境に配慮した活動を意識的に取り組んでいます。愛知本社では、廃材のバイオマス燃料化や植林活動など積極的に地域環境の向上に貢献しているほど。東京作業所では、土地の制約などもあって本社と同じような規模では動けないものの、まずは身近なところから環境負荷の低減に寄与できないかと、緑地のメンテナンスに用いる機械の電気化に着目しました。
近年、電気式の機械もバリエーションが豊富になり、社会的にも機械を電気化することによる環境負荷軽減のイメージは定着しています。しかし、緑地管理業者が使用する機械のうち、ガソリンを燃料とする機械のシェアは未だ多い印象があるのも事実です。作業効率や維持費、使い勝手など含めて作業機械を電気化することで得られるものはメリットばかりなのでしょうか。
そこで、緑地のメンテナンスに用いる全ての機械を電気化した場合、どのような違いがあるのか、実際に現場作業にて使った体験などもふまえながら様々な角度から検証してみることにしました。
結果、ガソリンを燃料とする機械(以下、エンジン式とします)と電気を動力とする機械(以下、充電式とします)を比較すると、それぞれに一長一短あることが分かりました。今回の検証内容が、緑地のメンテナンスに関わる企業のスタイルや方針に合わせた幅広い選択肢の一助となることを願って、私たちの見解も交えながらエンジン式と充電式の機械の違いについて整理します。
※注 今回対象とした機械(ブロア・ヘッジトリマ・草刈り機・噴霧機・チェンソー)は、マンション緑地や寺社仏閣といった弊社が請け負っている一般的な緑地のメンテナンスで使用するために購入したものです。必ずしもスペックや機能が比較対象として成立しない可能性もあります。ご了承ください。
一長一短. エンジン式・充電式 比較まとめ.
エンジン式は、本体価格や燃料費は掛かるものの、耐久性が良いためコストパフォーマンスは高め。パワーの強さという利点もありますが、エンジン音の大きさが在宅時間の増加に伴い苦情として取り上げられやすくなっているなどの課題もあります。
充電式は、本体価格や電気代は安く済むものの、充電池や充電器に初期投資が必要だったり、修理が必要になりがちだったりでお財布と相談する機会が多め。しかし、作動音がとても静かなので住宅の密集しているエリアなどでも使いやすく、本体の軽さが作業員の負担を減らしてくれるなどのメリットもあります。
※今回の検証で使用した機械
機種名や詳細なデータは記事末のリンクよりダウンロードできるPDF版をご参照ください。
【本体価格】
バッテリー式に軍配. ただし初期投資はエンジン式よりも高コスト.
エンジン式の方が1.5~倍ほど高額な傾向にあります。機械の本体代を個別に比較した場合は充電式が安いものの、充電式の機械を作動させるためには複数の充電池と充電器が必要であり、エンジン式で作業機械一式を揃える場合にはかからない初期投資が求められます。つまり、
機械の本体代に限って比較すればエンジン式の方が高額になりますが、
充電池や充電器を含めた額で比較すると充電式の方が高額になります。
ちなみに、弊社東京作業所は5~6名で現場作業に臨んでおり、この体制で効率よく作業するために購入した充電式の機械は次の通りです。総額はおよそ85万円になり、このうち約半分近くが充電池と充電器の値段およそ40万円で占められました。そして、充電池や充電器のうち、安価な互換品が半数以上を占めています。仮にこの互換品を全て(37個の充電池と、5台の4口充電器)純正品で揃えた場合、充電器と充電池の購入費はおよそ90万円となり、機械代と合わせた総額は135万円になります。
【エネルギー費】
電池寿命と充電手間を勘案すると両者の差はそこまでない.
エネルギー費(燃料費・電気代)は、機械によってばらつきは見られますが、エンジン式がやや高い傾向にあります。ヘッジトリマや噴霧機、チェンソーでは、エンジン式が3~5倍ほど高くなっているケースも見られます。一方、日常的に使用するブロアのエネルギー費は充電式が高め。参考までに、充電式のエネルギー費は、充電池の購入費もその費用に含めて算出(充電池の使用上限回数に制限があるため)しており、今回の試算では純正品をベースに検証していますが、互換品で計算するとおよそ5分の1程度に抑えられます。ただし、次の項目で整理している耐久性も踏まえて考えると、互換品のコストパフォーマンスが良いかどうかは判断に迷います。
エンジン式は、燃料を準備する手間が充電式に比べて少なくて済むというメリットがあります。充電式は、使い切ってしまった充電池を全てフル充電するために複数台の充電器と充電時間を確保しなければならず、エンジン式とは異なる負担が発生してしまいます。充電口の数よりも充電池の数が多い場合、1度に全て充電することが出来ず、次の作業に必要な充電池の準備が間に合わないこともあります(全て充電するために、定時以降も事務所に居残りしなければならない状況は避けています。充電しきれなかった場合は、現場に充電器を持参することも)。ちなみに、
弊社は5人体制で現場作業に臨む場合、充電池は6.0Ahを40個程度持参し、作業内容によっては全て使い切ることもあるくらいです。
【耐久性】
エンジン式はタフで壊れにくい.
充電式は修理頻度が多い傾向にあります。弊社では、充電式のヘッジトリマ5台を2年間使用して、4台が2年以内に1度の修理経歴を持ちます(弊社は、雨天時における充電式機械の使用を控えています)。エンジン式の機械は充電式と同じくらいの使用年月と仕様頻度で不具合がありません。エンジン式の方が雨などの悪天候時での使用にも耐え、屋外での作業が主戦場である造園業者にはポイントが高いと言えるでしょう。また、充電式の機械は充電池の温度がパフォーマンスを左右しているのか、夏場はいつもより充電池の交換回数が増えるなど、作業効率が落ちてしまう印象を受けます。
どんな環境でもバリバリ作業をこなさなければならない状況では、エンジン式を使用した方が作業効率は良さそうです。
参考までに、互換品の充電池は安価で初期投資を抑えたい方にとっては有難い存在ですが、壊れやすいという側面は見逃すことが出来ません。弊社は既出の通り37個の充電池を購入しましたが、半年間で4個が不具合を起こしています(最も早く不具合を起こしたものは使用し始めて1ヶ月以内に充電不可となりました)。純正品の充電池は、中には3年間ほど使用しているものもありますが、1つも壊れていません。
【修理費】
充電式は本体故障 = 買い替えに近い? DIY修理が理想.
充電式の方が高額になる印象を受けます。弊社がこれまでに修理を依頼した際、1万円以上(購入価格の5~7割程度)の見積価格になることが多く、修理するよりも買い替えてしまう選択肢が挙がることもありました。今回対象としたエンジン式の機械はまだ不具合がないので実際に修理や見積の依頼はしていませんが、筆者自身が以前勤務していた会社で依頼した際、エンジン式は数千円(購入価格の1~2割程度)で済むケースがほとんどでした。両方とも交換用パーツを通販で入手することが可能で、自前で修理できる態勢は整っていますが、個人的には本体の機構に電子回路を含む充電式の方が難易度は高いと感じてしまいます。ただの思い込みでしょうか。 耐久性と合わせて考慮すると、維持していく面でのコストパフォーマンスはエンジン式に軍配が上がります。
【重さ】
充電式の軽さは文明の証. 誰でも扱えて疲労も少ない.
エンジン式が重い傾向にあります。本体の重さは作業効率に大きく影響するため、充電式機械の取り回しは良いと言えるでしょう。例えば、サッと刈るだけで良い低木類などのメンテナンスなら、サイズの小さい充電式ヘッジトリマでも十分であり、その軽さは使用者への負担を大幅に減らしてくれます。それは、力に自信のない方でも扱いやすいユニバーサルなデザインとも捉えられます。
エンジン式は燃料を満タンにしても、総重量における燃料の重さが占める割合は1割ほどですが、充電式は充電池の重さが総重量の2~3割ほどになっています。充電池の軽量化が進めば、今後更に取り回しは良くなるでしょう。
【動力の強さ】
エンジン式が勝るが手作業と組み合わせるなら持て余す場合も.
数値の上ではそこまで違いは見られませんが、実際の使用感ではエンジン式が勝っている印象を受けます。ブロアを例に、どの程度の違いが見られるか比較をしたところ、枯葉のような軽いものは充電式でも十分ですが、枝葉のような少し重たいものになるとその差は一目瞭然です。しかしながら、実際の作業において全てのゴミをブロアだけで片付けるなんてことはほとんどしませんよね。エンジン式のパワーに頼らなくとも、ブロアで飛ばしきれないサイズの枝葉は予め手作業で片付けておいたり、ヘッジトリマで刈ることが出来ない太さの枝などは剪定鋏で切り落としておいたり、 機械に頼り切った荒っぽい作業にならないよう配慮していれば充電式のパワーでも日常的な作業は十分にまかなえます。伝統的な掃除道具の扱い方や庭園管理の技術をいかに上手く適切に日頃の作業に取り入れることができるか、ということもまた環境への配慮に貢献できるポイントと言えそうです。
【音の大きさ】
お客様のおうち時間の見方. 充電式は圧倒的に静か.
充電式の方が圧倒的に静かです。エンジン式と充電式の音の大きさ(dBA・デシベル)の差は、最大音量を比較するとおよそ10~20デシベルですが、聴覚上の音量差では3~10倍程度の違いにもなります。他にも、エンジン式と充電式の違いを挙げるとすれば、アイドリング時における音量の有無でしょうか。エンジン式はエンジンをかけたらスロットルレバーを引かなくても70デシベル程度(人が多い街頭や電話の音など、ある程度声を大きくしなければ会話が成立しない程度)の音量が出続けてしまいますが、充電式の作動音は機械を動かしている時、スロットルレバーを引いている時のみです。少しの違いのようですが、実際に現場で比較してみると大きな違いのように感じます。
ちなみに、
メンテナンスの作業に用いる機械を充電式に統一してから、機械使用に伴うクレームの件数は格段に減りました(半年で1回)。最近は自宅で勤務されたり、おうち時間を満喫されたりしている方が増えていますので、お客様や近隣の居住者への配慮として機械の音量にも気をかけることが求められるのではないでしょうか。
あらゆる道具を上手に使うことがエコへの近道. 機械の進歩にも期待です.
地球温暖化予測のための気候変動モデルを開発した気象学者真鍋淑郎氏※が、ノーベル物理学賞を受賞されました。大気中の二酸化炭素の濃度上昇が地球表面の温度上昇につながることが実証された今、環境改善に対する機運がますます高まっていくことは間違いありません。また、近年SDGsを契機に政府や企業のみならず個人にまでカーボンオフセットなどの環境関連の専門用語が浸透してきていることもあり、企業が社会に果たす役割も幅広い世代に理解しやすいより細やかな取り組みが求められているように感じます。そうした背景の中、まちのみどりに携わる造園業者にできることは果たして何でしょうか。
生物文化多様性への配慮や温暖化対策、発生材の資源化、環境問題に対する地域への普及啓発など、様々なことが考えられます。弊社も都市のみどりを担う存在として、環境負荷の軽減について考えるために緑地のメンテナンスに用いる機械のオール電気化を検証してみました。結論は、どちらが優れているということではなく、作業効率や使い勝手の面における一長一短の整理に留めています。というのは、今回の検証を通じて、持続可能な社会を目指すために私たちが取るべき行動は、自分たちで改めて考えることも重要なのではないか、と強く感じたからです。例えば、ガソリンを燃料とする機械を使っているからダメ、電気で動く機械を使っていればオッケー、というような固定観念に捉われた判断だけで自分たちの行動を決めてはいけない、ということです。どちらの機械を使っていても、より早く機械での作業を済ませられるように工夫したり、機械の使用頻度が少なくて済むように努力したりするなど、環境に配慮した行動を取れるよう意識し続けることができれば、それはこれからの時代を担う職人の在り方の1つとして捉えられるのではないでしょうか。
とは言え、環境に優しい機械が開発されるに越したことはありません。そうした期待を持ちつつ、自己研鑽にも努めなければなりませんね。私たちの検証は始まったばかり。環境負荷を抑える取り組みを模索しながら、様々なプロジェクトに取り組んでまいります。どうぞご期待ください。